ESG経営の実現に向けた挑戦

ESG経営の実現に向けた挑戦

企業に求められる役割は、株主価値の最大化からステークホルダーとの価値協創をめざすものへと、本来あるべき姿に戻りつつあります。社会との共生をめざしたESG経営実現に向けた課題について、有識者の方と代表取締役社長の髙松がディスカッションを行いました。

(2020年2月に実施)

グループミッション2030の実現に向けて

現在の当社のグループ理念・グループビジョンは、私が社長に就任した2014年に策定し、策定後は全国130を超える拠点を訪問し、浸透を図ってきました。また2019年に新たにグループミッション2030「世界中の人々の楽しく健やかな暮らしをクリエイトするDyDoグループへ」を掲げました。社会の変化に合わせ、グループを大きく変革させる必要を感じ、それをより強く推進するために少し先の未来のありたい姿を示したものです。

今、投資家の間では、気候変動問題、サプライチェーンを中心とした人権問題の他に、企業の目的(purpose)が世界的に大きな話題になっています。「企業は誰のものか」と問われると、もちろん株主のものです。一方、「企業の目的は」と問われると、株主利益の最大化からステークホルダーと価値協創をめざすものに進化しつつあります。企業の目的は、企業が社会の中で果たしたい役割、つまり理念の中で語られるものです。理念に基づいて、企業が将来に向けてどのようなストーリーを描いているのか、それが投資家の企業価値を測るベースになります。そして、理念を社長自らが実践しているか、またマネジメント・従業員に浸透して、彼ら一人ひとりが何のために何を成すべきか、理解し、行動しているかを大切にしています。

ダイドーは明確な理念を掲げる企業だと思います。理念は、企業の存在意義、理想、大切にしている価値観といった経営の哲学・思想です。理念はどこでもいつでも変わらない時空を超えた概念と言えます。この抽象性を自分たちの具体的な業務に落とし込み、社会に何を果たせるか、常に社内で議論されていることが大切です。一方で、ビジョンは「10 年後にこういう会社になっていたい」という時間軸が入ります。この点で、ダイドーが掲げたグループミッション2030は、一般的にはビジョンと言えるかもしれません。そのため一歩踏み込んだ具体的なものが見えると第三者からはわかりやすいかと思います。

ESG経営とは

企業がステークホルダーとの価値協創をめざすもの に進化しつつあるという背景にはどういったものがあるので しょうか。

私は、3つの要因があると考えています。1つ目は格差問題に注目が集まり、その原因を株主至上主義に求めるという考え方が広がったことです。本来、株主価値の拡大とステークホルダーの価値の拡大は相反することではありません。むしろ企業がステークホルダー全体の利益を追求することは本来のあるべき姿に戻ったとも言えます。2つ目は企業が価値を生み出すために使用する社会資本の健全性に投資家がリスクを抱き始めたことが挙げられます。企業は、資本を調達し、資産を確保し、価値を生みます。企業の資産となる工場を建てるための土地や、労働力はそもそも社会資本で、これらが健全であることが事業活動を行う上で前提す。そして、3つ目は社会に対する企業の影響力が圧倒的に大きくなり、さらにグローバル化が進んだことです。社会問題の解決は、本来国家が負うべきものですが、実際それには限界があります。企業が社会的責任を果たすことには経済合理性があるとも考えられます。

国際社会が投資家や金融機関など資金の出し手に、ESG観点での投資や融資の判断が求めているのは、各業界や企業ごとに要請をするより、浸透のスピードが速いからと理解しています。

CSRやESGに力を入れることは、コストとみられることもあります。

CSRに力を入れているけれど、株価のパフォーマンスが悪いという企業の事例もあります。ただ、それは、企業価値ではなく、レピュテーションのみを過剰に意識した活動に投資していたためと考えられています。経営者の皆さんにお伝えしたいのは、株主の価値を高めることとESGに配慮した事業活動を行うことは同じ方向を向いているということです。そして、その事業活動のストーリーのベースになるのは、理念を明確にしておくことです。株主・投資家やステークホルダーはそれぞれの立場から企業に様々な要求をします。それを本質的に解決できるのは「理念に共感し、投資してもらう」ことだと思います。

私たち投資家は、企業によき企業市民だけではなく、よき企業であってほしいと考えています。よき企業というのは、社会課題をビジネスにつなげていくストーリーを持ち、価値創造につなげていることです。そういった企業がサスティナブルな企業であると、私たちは確信しています。サプライチェーンに関する問題で例を挙げます。世界には児童労働の問題があり、社会課題としてよく挙げられる事例です。
ただ、視点を現地住民の側に置き換えれば、彼らにも生活があり、児童労働をやめさせるということが、正しい選択であるとは限りません。そういった場合、例えば企業に、「働いている児童に、教育を施してください。」というエンゲージメントをするケースもあります。企業のサプライチェーンマネジメントがその地域の教育水準の向上につながり、生活の質の改善につながれば、総体として社会課題を解決できる企業活動と言えます。たとえ時間がかかることが見込まれても、私たちは投資ができますし、そのストーリーを持ってアセットオーナーやその先の国民に対する説明責任を果たせます。

新しい事業や投資について2019年度は、取締役会でも多くの議論を行いました。社外取締役からは理念を実現するための戦略的な意義は、グループミッション2030の実現に向けたどういったアクションなのか、株主へのリターンはなど、細かく説明を求められ、時に後日、審議をし直すこともありました。言い換えれば、理念に基づいたしっかりとした中長期的なストーリーを描くことを求められていると感じています。それを担当者レベルでしっかり実践していくことが必要だと確認できました。

最後は社外の第三者の誰もが納得できる説明だと思います。説明できないことは往々にしてうまくいきません。真剣な構想がなければ説明はできないし、説明する過程で不足や矛盾に気がつけば、それによって戦略はブラッシュアップされます。

そしてそれを実現するのは、志とパッションです。それの原動力である理念は何よりも大切にしていただきたいです。

ダイドーグループにとってのESG経営とは

当社グループでは、「日本の祭り」を応援する活動を長年にわたって続けています。これは単に社会への貢献のみならず、地域社会を活性化することが、それぞれの地域に私たちの自販機を必要とする消費者が生活し続けること、つまり、私たちのコアビジネスである自販機ネットワークの維持にもつながると考えているからです。まさに理念が、社会への貢献と事業活動の発展に紐付いた活動だと考えています。一方で、気候変動についての取り組みは不可避であるものの、一企業としてできることの限界を感じ、悩ましさがあります。

影響力はどうであれ、それが当社の考え方であるというスタンスでいいと思います。ダイドーのようなオーナー企業のアイデンティティは、地域社会に根差してつくられている部分が大きく、地域社会の活性化が企業価値につながるという考え方は説得力があります。実際に、学術世界においては、日本のオーナー企業の継続性・利益率の高さが実証されており、長期的なリターンを創出しやすいと考えています。環境課題に対しても、影響の大小にとらわれず、企業の理念に即した形で取り組んでいくことが大切だと思います。

 「健康」「環境」「イノベーション」「人」と設定された重点課題(テーマ)には、創業者や先人たちの積み上げてきたもの、次代への思いを感じます。DNAとして生き続けてきたものを、時空を超えてマテリアリティとして生かされていく必要があると思います。

アクションを起こす時には理念に立ち返ること、そしてアクションを起こした時にそれが次世代にどう影響するのか、時空を意識しながら考えていくということですね。ESG経営はまさに、理念を体現するものだという社内の意識醸成が必要です。冒頭にご指摘があった通り、グループミッション2030は少し抽象的に見えるかもしれません。この実現に向けて、戦略をより一層具体的なものにするために、ESGプログラムを策定し、2020年度に推進組織としてESG推進委員会を立ち上げています。2019年度に各社・各部から当社グループに関わる社会課題を挙げてもらいましたが、まだ表面的なものが多いです。会社が旗振りをしているからやっているのではなく、事業環境の変化や社会課題に対して、自然に従業員の間でディスカッションが行われるようになって初めて、ESG経営が実践されているという状態だと理解しましたので、そのレベルに到達できるよう、取り組んでいきます。

2020年2月20日